私の企業分析の手法は、日本のバフェットとも呼ばれる奥野一成さんの著書から多大な影響を受けています。もし興味があれば合わせて読んでみてくださいね!
どうやって企業を分析する??
「付加価値」「競合優位性」「長期潮流」の3つ視点から企業を分析していきます。
ひとことで企業分析と言っても、何をすれば良いかわかりませんよね。そこで私は
- 付加価値
- 競合優位性
- 長期潮流
の3つの視点から企業を見ていくことにしています。それぞれの言葉については次の章で詳しく説明しますが、これをもってどのように企業を評価するのか、その概要を説明します。
このブログで扱う投資スタイルは「高配当株投資」です。ゆえに1度購入した株は長期で保有します。なので1度買ったら手放さない方がお得だと思えるほどの、構造的な強さが必要になるわけです。ここに妥協は許されません。
なので、「付加価値」「競合優位性」「長期潮流」が全て揃った企業にしか投資しません。1つも欠けてはなりません。
例えば
付加価値が欠けているとします。付加価値とは「社会のため、世のためになっているか」という視点です。これが欠けたビジネスが、どれだけ強くても、長く続いても何の役にも立っていないので、利益を生み出せるはずがありません。
競合優位性が欠けているとどうでしょうか。とてもタメになる価値を世の中に提供しようと、ライバルが出現し競争に負けてしまっては、利益を得続けることはできませんよね。
また、長期潮流が欠けていると、時代が移り変わると、「今」ある付加価値や競争優位性が崩れさってしまうリスクが高くなります。付加価値や競争優位性がなくなれば、もちろん利益など得ようはずがありません。
そのため、この3つの視点が揃っているのかをチェックしていきます。
じゃあ、この3つの視点の「意味」や「評価方法」などを細かく見ていこう!
付加価値ってなに?
付加価値とは世の中にとって本当に必要とされる製品やサービスが提供できているかという視点
これを言い換えると
- 社会に価値を提供できる会社なのか?
- その企業が「存在している社会」と「存在していない社会」で明確な差が生み出されているか
ということになります。
このように定義される付加価値ですが、基本的に上場できるような企業には少なからず社会に貢献できています。
そこで、企業が持っている付加価値が「人間の根源的な欲求を満たす」付加価値を持っているのかを確認しましょう。
人間の根源的な欲求を満たす付加価値は、例えば
- 長生きしたい
- 健康でいたい
- より便利で豊かに生活したい
といったことです。太古の昔から人間に備わった欲求を満たすような付加価値を提供しているのであれば、長期で利益を出し続ける可能性が高いです。
これに対して、時代の変化によって陳腐化してしまう付加価値もあります。「扇風機」を事例にご説明します。
昔はモノが圧倒的に不足していたため、「風の強弱を調整できて、タイマーを設定できる」などの機能性に価値を感じていました。しかし現代はすでにモノが溢れ満たされています。すると、求めるものが「機能性」から「意味性」に移り変わります。
具体的に申し上げると、「風の強さを10段階調整できる扇風機」より「風の強さは3段階しか調整できなくても、部屋に置いたときにおしゃれに見える扇風機」を求め出したということです。
なので、付加価値について評価するときには「なぜ」を繰り返し、人間の根源的な欲求のどの部分に訴求する製品やサービスを提供しているのかを分析しましょう。
付加価値を見つけ出すヒント
ヒント①:数字を比較する
例えば利益率です。同じようなビジネスをしているように見える企業同士でも、利益率が全く異なる場合があります。利益は「問題解決の対価」ですから、利益率が全く異なるのであれば、世の中に提供している付加価値が全く違う可能性が高いです。
なので、決算書にあるような数字を比較することで「疑問点:なぜ」を見つけ出し、それを深掘りすることで、その企業の本当の付加価値を見つけ出せるかもしれません。
ヒント②:投資テーマは付加価値として認定しない
たとえば、ESG投資です。「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)」の3つの要素を考慮した投資手法です。環境や人、社会を傷つけながら稼いでも意味ないよね?という理念のもと近年話題になっています。
ただこれは、昔から言われている「三方良し」となんら変わりません。企業であればやって当然のことです。なので、「ESGをちゃんとやってます」みたいな情報を決算説明会資料で見たときは「ふーん」くらいの温度感で流しましょう。
また、SDGsも最近流行っていますよね。「Sustainable(持続可能な) Development(開発) Goals(目標)」の略語ですが、これもまた、みんなにとって、社会にとって付加価値を提供しているのであれば、持続可能なはずです。「当たり前」なんです。
なので、投資テーマについての情報は基本無視で良いです。また、投資テーマというのは流行り物ですので、長期投資をする私たちにとっては雑音でしかありません。
消費者目線で考える
私たちが企業を分析する際には必ず「決算書」を読みますが、そこに書かれていることは「企業目線」で書かれています。付加価値の提供者側から見た考えが書かれていまるわけです。しかし重要なのは付加価値を受け取る側の目線です。
受け取る側が本当にそれを欲しているのか。人間の根幹にある欲求が満たされているのかを評価することが重要です。
競合優位性ってなに?
競争優位性とは「ライバル企業に対してどれくらい強い?」また「新たなライバルが生まれやすい?」という視点
ここで言葉を紹介します。
- 新規参入:今あるビジネス・事業に新たに参加し台頭すること。
- 参入障壁:今あるビジネス・事業への新規参入を妨げる障害のこと。
私たちが投資すべき企業は
「新規参入が非常に難しく」「誰もその企業と勝負しようと思わないほどの参入障壁」が築かれたビジネス的構造を持つ企業
ということになります。
では、どういった企業・ビジネスが新規参入が難しく、高い参入障壁を築けているのでしょうか。このブログでは「需要サイド」「供給サイド」に分類した項目をそれぞれ1つずつ持つ企業を、高い参入障壁があると認定します。
こんな感じですね。需要サイド・供給サイドのどちらも最低1つは該当していないと参入障壁が高いとは認めません。例えば、「スイッチングコスト」と「規模の経済」があると判断されれば、「高い参入障壁がある」と認定されます。
どちらか一方では参入障壁とは言えないんだね!
- 需要サイド:ユーザーがそのサービスや製品を他のものに変更することの難しさ
- 供給サイド:競合他社がそのビジネスモデルを真似しにくさ
じゃあ、それぞれの項目の意味や具体例を見ていこう!
需要サイド:スイッチングコスト
現在利用している製品やサービスから、別の製品やサービスに乗り換える際に発生する金銭的、心理的、手間などのコストのこと。
つまり、「変えるのめんどくさいな」とか「変えてもあまり効果がないな」と思わせれるかということです。このように顧客から思われていれば、競争に巻き込まれる可能性は低くなりますよね。
たとえば、「香料」です。歯磨き粉だったり香水だったり幅広く香料は用いられています。そして多くの場合「匂い」は商品決定の決め手になります。
にもかかわらず、香料が占める商品を作るための費用の割合は5%程度です。もし、その商品の売上が好調なのであれば、香料における価格競争は起きにくいと予想されます。それは、香料を変えることにより得られる「コスト改善効果」に対して、商品が売れなくなるリスクが高くなるためです。
他にもスイッチングコストの事例はありますが、大きく3つに分類されています。
- 習慣コスト
- 普段口にしているチョコや飲料水を別のブランドに変えるときの心理的な壁。
- コストと付加価値の非対称性
- 価値に対してコストが圧倒的に安。わざわざリスクをとって変える必要がなくなる
- サーチコスト
- 代替品を探す際の時間や手間のこと
需要サイド:陳腐化しない需要
現在提供している付加価値が将来的に変わらず求められるサービス・製品なのかということ。
例えば、歯磨き粉などの日用品が代表例です。歯磨き粉は多くの人の習慣に溶け込んでいます。この習慣がなくなるとは考えにくいですよね。
また、SMCという空気圧制御機器も「陳腐化しない需要」の事例の1つです。空気圧制御機器は工場で使われる3つの動力の1つです。この動力としての需要が陳腐化するとは考えにくいです。これに加え、SMCで扱う製品の品番が10年前とほとんど変わりません。これは在庫が陳腐化しにくいと言えます。
逆に、アップルの「iPhone」について考えてみましょう。iPhoneはカメラの性能やCPUを制御するためのチップ、より美しく映し出されるディスプレイなど毎年のように改良が重ねられています。
つまり、今年売り出しているiPhoneは来年になると価値が下がってしまいます。つまり需要が陳腐化してしまったということです。なのでイノベーションが起こりやすい分野では「陳腐化しない需要」は該当しにくいと言えます。
需要サイド:ニッチな需要
大規模なビジネスに対抗する手段の1つで、事業領域を特定の専門領域に絞り競合と差別化すること
ここでも事例を1つ紹介します。「エムスリー」という企業です。
エムスリーは医療業界の業務効率を向上させる各種サービスを提供しています。主力サービス「MR君」は製薬会社と医者をつなぐ「SNSサービス」です。「医者」という専門集団の9割以上をプラットフォームに乗せたことで、強固な参入障壁を形成しています。
医者と製薬会社の間を取り持つので専門知識が必要となるため、汎用的なSNSを運用するフェイスブックは入ってこれないというわけです。
需要サイド:ネットワーク効果
製品やサービスが普及することで、その製品やサービスの利用価値が増大する現象
これは「電話」を例にするとわかりやすいと思います。
電話って「私だけ」が持っていても何の価値もありませんよね。なぜなら通話できる相手がいないから。電話を持っている人が多ければ多いほど、通話可能な人が増え、利便性が向上します。
こういった性質を持ったビジネスモデルで、市場のシェアの大部分を占めていると、新たに参入しても勝ち目が薄いことは明らかですね。
供給サイド:規模の経済
企業が生産規模を拡大することで得られる経済効果。
最もその製品を大量に生産できる企業は他社に比べて安く生産可能になります。また、大量に生産できるということは市場に流通し、市場シェアが高まっていることの裏返しでもあるため、トップに君臨し続ければ君臨し続けるほど有利に競争できます。
そのため、参入障壁が築けるわけです。
供給サイド:情報優位
その企業のみが得られる一次情報により製品やサービスの品質が向上する仕組み
これは「AI」を事例に考えましょう。
「AI」の開発自体は誰でもできるため、参入障壁を築きにくい分野ですが、AIの育成や利用のために使う大量の「一次情報」を取得できる仕組みを作っている企業は参入障壁を築きやすいです。
たとえば、農機市場において「最も効率的な作物を植える間隔」を研究するためにAIが導入されています。この研究が最も効率的に精度良く行えるのはどんな企業でしょうか。
もちろん農機市場において高いシェアを有し、多くの栽培事例データを持っている企業ですよね。シェア率の低い企業はこの分野での開発で勝ち目がありません。
そのため、新規参入してくる企業はもちろんのこと、現存する企業においても参入障壁を高く築けるわけです。
供給サイド:生産技術
その製品を作るための仕組みを独占してしまうことで生まれる参入障壁
ここでは「パフューマー(調香師)」を事例に考えましょう。
パフューマーとは香水やフレグランスなどの香りを調香する職業ですが、その養成には多大な時間がかかり、また成り手は少ないのが現状です。
こんな状況で1つの企業がパフューマーの50%以上を抱え込んでいたらどうでしょうか。他の企業が参入しても製品を作ったり開発するための人材を雇うのが困難であることは明らかです。
このように、研究開発や製造に関わる生産体制にある意味「独占的」な仕組みを作ることで、参入障壁を築くことができます。
供給サイド:供給制約
市場への供給量を制限し、希少価値を高めることで、利益率を向上させる仕組み。クオリティの高さやブランド力を必要とする。
供給制約は「ブランド化」とも言い換えることができます。
「フェラーリ」を事例として取り上げてみましょう。
フェラーリは「車」ですが「移動手段としての車」ではなく、ある意味「骨董品的な車」を社会に提供しています。なので、「希少性」がその価値を生みます。
ですが、これは一朝一夕にできるものではありません。いくら供給量を制限しようとも、その商品が多くの人に認知され、強く欲してもらえるほどの「ブランド力」を持っていなければ成り立ちません。
そのため、このビジネスモデルに新規に参入しシェアを勝ち取るのはかなり難しく、参入障壁と呼べるわけです。
供給サイド:周期性
周期的にやってくる繁忙期に耐えられる生産体制が整っているか??
ここでは「チョコレート」を事例に考えます。
世界のチョコレート市場では、年間需要のかなりの部分が「イースター」や「ハロウィン」に集中しています。この時に急増する需要を賄える供給能力を持つ企業は一部に限られます。大規模な生産体制を必要とされるため、多額の投資が必要となりプライベートブランドにとっては参入障壁が高くなってしまいます。
また「半導体」にも「シリコンサイクル」と呼ばれる周期的な需要の波があるという点で同じことが言えます。
競合優位性は移り変わる
ただ、ここでわかる競争優位性は「今」の状態を評価することしかできません。そこで未来を想像するために「経営資源の使い方」をみます。
「経営資源(得られた利益)の使い方」で参入障壁を維持したり、補強したり、新たに作ったりします。
経営資源の使い方の種類
- 競合の会社を買収(買収も立派な投資)
- 研究開発投資(R&D)
- 設備投資
- 人材投資
長期投資は一度投資したら放ったらかしではなく、時折チェックする必要があります。その際には、投資判断時に認定した参入障壁が今も健在なのか?弱体化してないか?はたまたさらに強くなったのか?などを確認しましょう。
長期潮流ってなに??
普遍的で不可逆的な潮流(トレンド)
ここで注意したいのが、「人工知能(AI)」や「自動運転」といった中短期的なブームや予想は長期潮流とは認定しません。またESGやSDGsのような投資テーマも移り変わりのあるものなので長期潮流とは認定しません。
ここでいう長期潮流とはもっと根源的で戻ることのできない、逆らうことのできない潮流のことを言います。具体例をお示しします。
人口動態
人口動態とは「ある一定の期間における人口の変動のこと」を指します。これは一朝一夕に変えられるものではなく、不可逆的なものです。
現状の人口動態から分かることは
- 世界の人口は2080年ごろまで増え続ける
- 世界的に1人あたりの所得は増えている
- 先進国では少子高齢化が進んでいる
- 日本国内の人口は2015年ごろから減少に転じている
といったところです。
健康で長生きしたい
これは人間が古来から持つ根源的な欲求で、決して変わることはありません。
生まれた瞬間から、「死んでも良い」と思う人はいませんよね。より豊かに健康に長く生きたいという欲求は生物的に持ついわば本能のようなものです。
都市化
これは、「多くの人が年に集まる」ということを指しています。世界各国で都市への一極集中が進んでいます。私たちが住む日本でも、全体の人口は減少傾向ですが、東京などの都市部の人口は増加傾向です。人口減少に伴い行政サービスを限定的にせざるを得なくなるため、コンパクトシティが進められている現状を考えると、不可逆的に進んでいくでしょう。
このことを考慮すると、「ビルはより高く」なり、これに伴って「エレベーター」の需要が増加すると予想できそうですね。
国家財政悪化
これは「長生き」の実現により「社会負担」が重くなり財政が悪化するというものです。
現在の仕組みのままであれば、高齢者を支えるための社会福祉に対するコストは増大し続けます。これに対してどのように対策を打つのかという問題解決は大きなビジネスチャンスを生みます。
「国家財政悪化」と「健康で長生きしたい」という長期潮流が混ざることで「より治療費が抑えられた治療法の開発」という新たな長期潮流が生まれます。
長期潮流を混ぜてみると新たな発見があるかもしれませんね。
垂直統合から水平分業へ
これは「全て自分でやる」から「商品企画やマーケティングは自社でやるけど、製造は外注化しよう」への移り変わりの潮流です。
一見ブーム的な要素を感じるかもしれませんが、この背景に不可逆性があります。
このように変遷してきた背景としては、「社会がより豊かになってきた」ということが挙げられます。社会がより豊かになると消費者の欲求はより高度になり多様化していきます。
これに応えるためには、全てを自分でやっていたら、スピードも遅くなるしコストも莫大にかかってしまいます。そこで商品企画やマーケティングに注力しようという潮流が生まれます。
退屈の解決
先ほどから申し上げているように、私たちが生活する社会はより豊かに便利になってきました。すると私たちは生きるためにする仕事にやりがいを感じなくなっていくと予想されます。
そんな時に「私たちの心を満たしてくれる何か」が今後重要になってくるでしょう。便利のその先に潮流が生まれます。